ライター・編集者。編集プロダクションで仕事をしたのち、イギリスで生活。現在は日本に帰国し、NPO「みんなのことば」にて子どもの芸術支援を軸に、フリーランスで活動中。
水車にチューリップ、まるでおとぎの国のようなかわいらしさが人気のオランダ。
今回は、そのオランダの水辺と人々とのつながりを紹介します。
低地のオランダ
オランダの正式国名は「低地」を意味するネーデルランド(Nederland)。
国土の4分の1は海抜0メートルより低く、干拓地です。
「神は世界をつくり、オランダ人はオランダをつくった」とオランダ人は誇りを持って語りますが、この言葉に象徴されるように、オランダでは昔から高潮などの海水の侵入と戦いながら海岸沿いに防波堤を作り、風車で水を汲み出し、そして街に水路を張り巡らせて低地を守り、そして人々の努力によって国土を増やしてきました。
中でも縦横無尽に運河が巡るオランダの首都・アムステルダムは、その人の手によって作り出された街の景観が美しいと、世界中の人々を魅了する観光都市として発展したわけです。
魅力的な運河の街
でも、この人々によって作り出された運河がとっても印象的な街は、アムステルダムだけではありません。
かの有名な画家フェルメールの故郷でもあるデルフトも運河の街。
ゴシックやルネッサンス様式の家々が立ち並ぶ街中に、細い運河が張り巡らされています。
この小さな街・デルフトは歴史ある建築物と緑、そして運河が織りなす眺めが美しく、街のいたるところで絵はがきのような景観に出会います。
とくに緑に囲まれた東門周辺は、フェルメールの「デルフトの展望」を偲ばせる場所。
川の対岸から眺める、歴史ある東門が水面に映り込む情景は、フェルメールがキャンバスに向っていた時代を彷彿させてくれます。
フェルメールは「デルフトの展望」で水面の透明さを表現するために油絵具を薄く何層にも重ね、時間をかけて描いたとか。
フェルメールの絵画、そしてこの東門の眺めからも、水辺とオランダの人との深いつながりを感じます。
デルフトといえば、もうひとつ有名なものがあります。
それは、名産のデルフト焼き。
そしてこのデルフト焼きの発展にも運河が一役買っているそうなんです。
じつはデルフトは17世紀ごろオランダ東インド会社の輸出入の拠点だった場所。
そのため、その頃盛んに作られていた陶器はヨーロッパ諸国や中国、そして日本からやってくる焼き物の影響を受け、現在のデルフト焼きの形になったのだそうです。
そんなデルフト焼きを特別なものにしているのが、白地に藍色の濃淡で描かれたデザイン。
昔のデルフト焼きの多くが子どもの姿やチューリップなど、オランダの日常生活にまつわる絵柄だったようですが、中には水車と水辺、帆船などが描かれているものも。
焼き物にもやはり水辺の風景なんですね。
人々の生活に寄り添う水辺の景観
さて、先ほど「デルフトの展望」のところで触れたフェルメールですが、皆さんご存じの通り、光を巧みに描いた画家として有名です。
そしてこのフェルメールが描いた光も、街を流れる運河が関係しているのでは?という話をオランダの友人から聞きました。
オランダの街を歩くとキラキラと輝く運河の水面が街を明るくしていることに気がつきます。
だから「運河の街・デルフトで生まれたフェルメールが光とその光が作り出す影に自然と意識が向き、その2つの要素を彼の描く世界で表現したのは偶然ではないのでは?」という話。
なるほど、自然が人々にもたらす芸術へのアプローチ。
なかなか興味深い考察です。
でもこれは友人たちの間で交わされた話。
本当かどうかはもちろんわかりませんが、たしかに、運河と水面に反射される光が生活の一部となっているオランダでは、そんな説もあり得るのかなと感じてしまいます。
そしてそのフェルメールの光と影を表現した作品を見ることができるのは生まれ故郷のデルフトではなく、じつはとなり街のデン・ハーグ。
そのデン・ハーグの中心部にあるマウリッツハイス美術館で、彼の作品を楽しむことができます。
マウリッツハウス美術館には、フェルメールのほかにもレンブラントなど、オランダのフランドル絵画の作品群が多く展示され、見応えたっぷり。
そしてそれらの作品を眺め歩いていると、運河や川、そして海や帆船が描かれた美しい風景画が意外に多いことに気がつきます。
中には凍った運河で人々がスケートをする人々を描いたものも。
オランダの人々にとっていつの時代も水辺はなくてはならない存在。
水がもたらす困難とうまく共存してきたからこそ、水と仲良くも暮らしていける。
水辺とオランダ人の距離は本当に近いのだなと、昔の絵画を見つめながらも感じます。
オランダを訪れた際には、そんなオランダの人々の暮らしに溶け込む運河や水辺、そしてそれらが作り出す美しい景観のことをちょっと考えながら、観光してみてはいかがでしょうか。
そしてその経験が、本当の豊かさを考えるきっかけになれば良いですね。
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