懺悔の火曜日にパンケーキにはパンケーキを…

#ヨーロッパ #暮らし #安田和代

2024/02/28592 Views

writer:安田 和代(やすだ かずよ)
ロンドン在住の日本人編集者/ライター。昼は本を編み、夜は毛糸を編み、週末は畑で有機野菜を育てる日々。読書、写真、畑しごと、発酵食品&保存食づくり、編みもの、ポッドキャスト「試運転(仮)」、通信制大学で食物学の勉強など、あっちもこっちも。

クリスマスをはじめ、英国にはキリスト教に根づいたさまざまな行事があります。
そのうちのひとつが「パンケーキデー」です。
毎年復活祭の約1ヵ月半前にやってくるこのユニークな日についてお届けします。

贅沢品を使い果たす「懺悔の火曜日」

イエス・キリストが、磔による死から復活したことを祝うイースター。
「春分の日の直後の満月の次の日曜日」と定められているため、毎年日付が変わり、3月から4月にかけてやってきます。
英国では、金曜日(グッド・フライデー)から月曜日(イースター・マンデー)までの4日間がお休みとなり、小ぶりながら春の大型連休といったところです。

さて、国民の休日にはならないものの、イースターの前にも、実はさまざまなキリスト教にまつわる行事があります。
たとえば、イースターまでの46日間にあたる「レント(四旬節)」は、キリスト教の絶食期間で、いまでも「好きなものや贅沢品絶ち」する人が多いのです。
チョコレートやタバコ、コーヒー、アルコールなどがよく聞かれる例ですが、クリスマスに一日でひとり6000キロカロリーも摂取すると言われる英国では、実は年明けのレントは、理にかなった習慣ともいえます。

そして、そのレントが始まる前日にあたる「懺悔の火曜日(Shrove Tuesday)」が「パンケーキ・デー」。
翌日からのレントに先駆けて、バターやタマゴなど、家のなかの贅沢品を使い切ってしまいましょう、という発想から生まれた習慣だそうです。

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クレープに近い英国のパンケーキ

パンケーキと言っても、日本のホットケーキのような厚みのあるものではなく、膨張剤抜きで、薄力粉、タマゴ、牛乳のみで作る薄いクレープのようなものが定番。
英国では、レモン汁と砂糖を振りかけて食べるのが主流で、これがなかなかさっぱりしていて美味しいのです。
ほかにも、ヘーゼルナッツチョコレートスプレッドやバナナ、メープルシロップとバターなど、さまざまな方法で楽しみます。
今年の懺悔の火曜日は、バレンタイン前日の2月13日でしたが、我が家でも夕食後に急に思い出して、いそいそとパンケーキ作り。計画性のなさから、ついつい食べ過ぎてしまった夜でした。

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国会議員も走るパンケーキレース

さて、パンケーキ・デーに英国のいたるところで開催されるユニークなイベントが、パンケーキ・レースです。

パンケーキを入れたフライパンをバトン代わりにリレー形式で行われるレースで、その起源は15世紀のバッキンガムシャーのオルニー村。
一説によると、とある主婦がパンケーキ作りに没頭するあまり時を忘れ、懺悔の火曜日の礼拝を告げる教会の鐘の音を聞いて、慌ててフライパンを持ったまま教会に走って行った、という逸話から始まったとか。

地域によってルールが異なり、コスプレして走るとか、走っている間はコンスタントにパンケーキをフライパンのなかで返さなければならず、最低でも90センチは宙に上げなければいけない、など、なかなかの無理難題が設定されています。

かつては国会議事堂前の広場でも、貴族院、庶民院、国会報道チームの3チームに分かれて、大真面目にパンケーキレースが繰り広げられていました。

一度だけ取材したことがあるのですが、皆さん真剣勝負で、実にエンターテイニング。
終了後に、エプロンとシェフハットを脱いで、スーツ姿で去って行く姿もウィットに富んでいて楽しかったです。
残念ながら、英国のEU離脱をきっかけに、国会議員のパンケーキレースは消えてしまいましたが、また再開してくれないかな、と密かに待ち望んでいます。

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